
もくじ
ボイスカルチャーが誕生するに至った発声の歴史
発声史において重要な出来事を3つ挙げるとすると、次の3つを選びます。
- 言葉によるコミュニケーションが発達し始めた原始時代
- 17世紀頃に栄えていたオールドイタリアンスクールメソッド
- 科学が発展し始めた頃に生まれた近代メソッド
言葉によるコミュニケーションが発達し始めた原始時代
まだ人類が言葉を発明する前は、「アーアー」「ウーウー」という非言語コミュニケーションが主流であったと考えられます。このアーアー・ウーウーは、鼻歌やハミングに近いイメージかと考えられます。
つまり、原始の人たちが言葉を話す前は、鼻歌やハミング、すなわち歌うような感じでコミュニケーションをとっていたのではないかと考えます。そう、常に歌っている、そんなイメージです。
そして、言葉が発明されると、歌ではなく言葉を話すことが主流になると、時代が進むにつれ、歌を歌うのに最適化された喉から、言葉を話すのに最適化された喉へと変化していきます。
その違いは、言葉を話す場合、歌を歌うときに使う筋肉の一部を使わなくなったことです。この歌を歌うときに使っていた筋肉が、声における機能や表現の損失へとつながったと言われています。
現代の人たちに比べ、原始の人たちは、声における圧倒的な機能や表現を持ち合わせていたと思われます。
17世紀頃に主流だったオールドイタリアンスクールメソッド
原始時代から失ってしまった声の機能や表現を取り戻すべく、様々な訓練が試みられますが、その最盛期とも言えるのが、17世紀頃に発達していた理論であると言われています。オールドイタリアンスクールメソッドとも言われますが、訓練の主軸となったのは、次の3つでした。
- 地声と裏声の強化と融合
- 母音の純化
- メンタルコンセプト
最重要訓練である地声と裏声の強化と融合を、喉頭の位置取りの手助けを行う母音の純化と、イメージワークであるメンタルコンセプトによってサポートする方針であったといいます。
当時はまだ体幹などのからだの仕組み/無意識などのこころの仕組みについては発見されていなかった時代で、自分のこころとからだに起こる感覚に対して忠実に突き詰めていった集大成とも言えます。
武田梵声氏によるオールドイタリアンスクールメソッドの一例
科学が発展し始めた頃に生まれた近代メソッド
1850年頃、喉頭鏡の発明による喉近辺の研究が始まったことに加え、当時の音楽シーンの変遷に伴い、様々な理論が考案されました。その際に生まれた理論が、現在多くの養成期間で教えられています。
腹式呼吸をはじめ、発声配置や地声と裏声を混ぜる発想のミックスボイスなど、総じて近代メソッドと呼んでいます。
この近代メソッドは、科学の進歩に伴って得られた新しい情報をもとに、仮説を立てて理論構築を試みていました。
しかし、およそ100年かけて検証を重ねた結果、近代メソッドは生理学・解剖学・音響学等の観点から、そのほとんどが誤りであり、自分のこころとからだの感覚を追求していたオールドイタリアンスクールメソッドの方が遥かに優秀な理論であったということを、20世紀の3大ボイストレーナーをはじめとした研究者たちが結論づけました。
20世紀の3大ボイストレーナーは、次の3名を挙げています。
- エドガー・ハーバート・チェザリー(1884-1969)
- フレデリック・フースラー(1889-1969)
- コーネリアス・ローレンス・リード(1911-2008)
ボイスカルチャーの誕生と衰退
言葉の開発により、抑圧されてしまった喉頭の構造や機能を、原始時代の自然的・野生的な状態へと元還りする役割をになっていたのがボイスカルチャーです。
ボイスカルチャーが活躍していた時代
ボイスカルチャーは、オールドイタリアンスクールが主流の頃にできた職業だと言われています。
当時、発声を訓練する人のことを、ボイストレーナーではなく、ボイスカルチャーと呼んでいました。
カルチャーという単語を聞くと、1番最初に出てくる和訳は「文化」かもしれませんが、辞書で調べてみると、次のようになっています。
- (植物などの)栽培;《生物》(菌・細胞などの)培養,飼育
- (特定の組織・地域の)文化,気風,やり方,慣習
- (文化によって培われた)教養,洗練,芸術的文化,文化活動
引用 goo辞書「culture」より
喉を植物に見立てて、超克たる自然の生命力かのごとく発声器官を育てるエキスパートとして、卓越した耳をはじめとした知覚をもって訓練していたのが、ボイスカルチャーと呼ばれる人たちでした。
ボイスカルチャーが衰退した時代
ボイスカルチャーが衰退を始めたのは、近代メソッドの移り変わりの時期と言われています。
自然の法則を認識する声の聴き方から、科学の仮説をもとにした推論へと重きが変わり始め、次第にボイスカルチャーとしての能力が著しく失われていきます。
歴史を見ても、産業革命から第一次世界大戦の時代は、いわゆる古き良きものが多く失われた時代でした。
ボイスカルチャーのほかにも、例えばクラシカルホメオパシーが衰退したのもこの頃だといいます。
ボイスカルチャーの現代の定義
ボイスカルチャーは、喉頭の機能を回復させることで、超自然・野生的な構造と機能を回復させるという17世紀来の役割に加え、当時は発見されていなかった心理学的見解を取り入れることで、原始時代をも超える能力開発が可能となったと考えています。
リベラル・アーツ同様、古代のものに加え、現代に判明したものを加えることで、より自在でかつ自発的にその能力を高めることができます。
ボイスカルチャージャパンでは、現代のボイスカルチャーの定義として、17世紀型の優れた発声理論に加え、家族療法や現代催眠などの第一人者ミルトン・H・エリクソンが、その天才的手法で多くの命を救った数々の心理的手法から得られる自分自身とのコミュニケーションを通じて、芸術的文化のみならず、日常における人格形成を行っていこうと考えました。
写真 Milton Hyland Erickson(1901〜1980)


以上から、現代版ボイスカルチャーを次のように定義しました。
こころ・こえ・ことば 3つが密実一体となった叡智の流れを、見て、聴いて、感じることのできる人
現代版ボイスカルチャー 沿革
- 2020年 1月
- 創業者の加藤寛理が、肩書きをボイストレーナーからボイスカルチャーに変更する
- 2021年 5月
- ボイスカルチャーの商標を取得する(ボイスカルチャー®︎)
- 2021年 8月
- ボイスカルチャージャパンの名義で協会を設立する