コミュニケーションによる意思疎通
SNSや掲示板で、よくこんな言葉を見かけます。
- ちゃんと言わなければ何も伝わらない
- 言葉にして伝えようとしなければ理解されない
- コミュニケーション能力を上げるには、会話スキルを磨くしかない
言葉による意思疎通は、ヒトの大きな特長の1つであることには違いありません。
しかしその一方で、言葉や会話によって、誤解やすれ違いが起こっているようにも感じませんでしょうか?
今回は、会話の性質について触れ、そしていかに誤解やすれ違いをなくしていくかについてお話ししていきたいと思います。
- よく会話が噛み合わなかったりズレたりする人
- 誰かからの言葉で不快な思いをすることの多い人
- 大勢で仕事をしている人
省略・歪曲・一般化
会話における省略・歪曲・一般化
人は、文章や会話を短く簡潔にするために、省略・歪曲・一般化という3つの手法を用います。
例えば、ある人がこんなふうに発言したとします。
「お祝いにケーキすら買ってこないような男は、家族のことなんか考えてないよね」
省略
もの・人・こと等を修飾・補足する言葉を省略し、一部分しか伝えない状態
- ケーキは、ホール?カット?
- ケーキの種類は?
- 男は、お父さん? お兄ちゃん? 知人? 他人?
- そもそもこれを発言しているのは誰? 男性?女性?
誰が?何が?何を?などの補語・目的語などが抜け落ちていることを省略と呼びます。具体的には、不特定名詞(みんな、安心)、不特定動詞(行った、努力した)、比較(優れている、足りない)、判断(問題ない、優秀だ)などが挙げられます。
省略の他の事例を紹介しています。
歪曲
過去の体験等から得た結果をショートカットで結びつけた結果、事実がねじ曲がった状態
ケーキを買ってこない男はみんな、家族のことを考えてないかと言われれば、例外もありうるため真実ではない。
ただし発言主が、過去に子どもの誕生日を忘れた旦那に対する不満を持った体験をして、そのときに「家族を大切にしない男」と定義づけたとします。
ケーキを買って来なかったこと、家族を大切にしないと思ったことーこの2つが結びつき、1つの価値観となるのが歪曲です。
歪曲の他の事例を紹介しています。
一般化
例外を考えず、あることが同じ種類のことの全てであるかのように表現している状態
- 買えなかったのは、財布を落としてしまったからという可能性は?
- 誕生日のことを忘れていた可能性は?
- 本当に一度も家族のことを考えたことがない?
- ケーキを買ってもらえなかった対象の人はどう思っている?
ケーキを買って来れなかったことを悔やんでいるかもしれませんし、ケーキが嫌いかもしれません。色々な事情や可能性があるものの、自分の希望や思い込みから、それが全てであるかのような表現になることを一般化といいます。
一般化の他の事例を紹介しています。
なぜ省略・歪曲・一般化をするのか
正確に伝わらないなら、正確に伝わるように、省略・歪曲・一般化しないように言えばいいのに…って思いますよね。
では、実際に、先ほどの例文を、省略・歪曲・一般化しないように書いてみたいと思います。設定は、奥さんがママ友に旦那の愚痴を言っていることにします。
昨日ね、うちの1番上の長女の5歳の誕生日だったのよ。でもね、うちの旦那、月に1回残業あればいいほうなのに、よりによって昨日が残業の日で、4時間残業して、いつもなら18時に帰って来れるのに、22時に帰って来たの。しかも手ぶらで。娘は寝ちゃって残念そうだったのよね。せっかくの誕生日なのに、お祝いのケーキすら買って来なかったのよ?ひどくない?私の実家ね、父親が仕事が終わっても家に帰らず飲みに回るような人で、お祝いもロクにしてもらったことがなかったのよ。いつもママだけがお祝いしてくれたんだけど、結局ママは自分のことを大切にしない人だって悲しんでた…そんな過去があるから、私は旦那さんはちゃんと家庭を顧りみる人がいいと思って、そういう人と結婚したと思ったのに、なんだか裏切られた気分なのよね。
まだまだ省略したりしている部分がありますが、こんな感じでしょうか。
随分膨らみましたね。
1つ1つの言葉にも意味や歴史があるので、その解説や補足を入れていくと膨大な量になります。
コーヒーが好きというだけでも、インスタントコーヒー・喫茶店・こだわりのハンドドリップ…全然味が違いますよね。
コーヒー好き同士が、どこの原産国の豆だ、焙煎の深さがどうだ、なんて話すのは盛り上がるでしょうが、ただコーヒーが好きなことを伝えるのに、原産国だの焙煎度だの伝えていては大変です。
よって、物事を伝えるうえで最適化した状態で伝えるために、省略・歪曲・一般化を使っているのです。
メタモデル
省略・歪曲・一般化された言葉を明確にする
もしも会話において、きちんと伝わっていないとすれば、話している内容が相手によって最適化されていない状態なのかもしれません。省略・歪曲・一般化されているであろう言葉に対して、質問をして補足していくことにより、より正確に伝わります。
この省略・歪曲・一般化されている言葉を、質問により明確にし、完全化しようと試みることをメタモデルといいます。
メタモデルを実施する目的
- 情報を収集する
- 言葉の意味を明確にする
- 制限しているものを発見する
- 選択の可能性を広げる
省略・歪曲・一般化された言葉によるトラブル
では、実際に起こった事例を見てみたいと思います。
昨今ではSNSの普及により、少ない文字数から起こる解釈違いが多く見受けられます。
筆者がよく事例として取り上げるのは、2020東京オリンピックの大会組織委員会のことです。森会長のある発言が炎上し、会長を交代せざるを得なくなった事件です。
女性がたくさん入っている理事会は、理事会の会議は時間がかかります。
今までの倍時間がかかる。女性っていうのは競争意識が強い。
誰か1人が手をあげていうと、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね。
この森会長の発言には多くの省略・歪曲・一般化が含まれていて、メディアが言葉をそのまま流した結果、ある聞き手の方たちが怒って炎上しました。
おそらくですが、森会長は、過去に女性がたくさんいる理事会で、会議が白熱した現場にいらっしゃった経験があるのではないかと推察されます。
ご本人の中では、そこまで白熱しなくていいのに…とコリゴリだったのかもしれません。
森会長がいう「女性」とは、この理事会に在籍していた女性メンバーを指しているでしょう。
しかし、どういった女性かを伝えず(省略)、過去の体験から女性の多い会議における傾向の持論を展開し(歪曲)、それがあたかも毎回そうであるかのように伝えた(一般化)ことで、そのような背景をイメージできなかった一部の女性たちが「女性に対する差別だ」と騒いだことで、女性軽視発言問題となってしまったのです。
訴えた方々の多くは、森会長に直接何かされたわけでもなく、ましてや面識もない方が多いでしょう。
直接何かされたわけでもないのに、許せないーすごいことですよね。
森会長ももう少しきめ細やかにお話しされればよかったかなと思いますが、聞き手の方も、発言をメタモデルによって修復すれば、怒る要素は何もなかったのではないかと思います。
- 森会長の省略・歪曲・一般化された言葉
- そのまま流したメディア
- そのまま受け取って怒った第三者
それぞれに課題の残る対応であったと考えています。
メタモデルの活用と注意点
メタモデルの活用にあたって
積極的にメタモデルを活用することで、会話による齟齬・解釈違いを限りなくゼロに近づけることは可能です。
ただし、注意点として、そもそもですが、言葉によるコミュニケーションは、必ず解釈違いが起こる前提であると覚えておいてください。
必ず起こるので、足りない部分・共有できないイメージを補足するのにメタモデルを活用するのです。
メタモデルの活用概要
省略・歪曲・一般化を、質問によってより明確にすることで、伝達違いをなくす。
6W3Hなどの切り口で質問し、相手のイメージと自分のイメージを一致させていく。
メタモデルの注意事項
詳しいメタモデルの活用については、勉強会やオンラインコンテンツとして提供をしています。
活用にあたって最も注意したいことを挙げるとすれば、やりすぎると詰問になってしまうということです。
また、メタモデルの反対はミルトンモデルといいますが、抽象的にぼかす方が相手の解釈に幅を持たせることができるため、共感を生みやすく、気持ちが楽になることも多々あります。
必要に応じて、論理階型(チャンク)を上げ下げしていくことで、コミュニケーションを最適化することが、メタモデルの活用のゴールといえるでしょう。
メタモデルは、ニュートラルベースNLP®︎の講座の一部です。もっと学んでみたい!という方は、ぜひ講座の受講をご検討ください。
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