腹式呼吸の訓練
腹式呼吸の効果
声の訓練をしたことがある人たちが、1番最初に教わるであろうことー腹式呼吸。
腹式呼吸を導入すると、こんないいことがあるよ〜!と教えられたのではないでしょうか。
- 喉に余計な力が入らない
- 喉が疲れない
- 高い音が無理なく出せる
- 自然と声が大きくなる
- 重心が下がり安定する
- 表現が豊かになる
発声の基礎だから、ちょっと苦しくても、きっちり身につけようと、足上げ腹筋をしたり、寝そべって声を出したり、お腹にグッと力を入れたり、お尻の穴を締めたり。
ヒーヒー言いながら腹式呼吸をひたすら訓練する。しかし、未だに声のコントロールが自由にできず、その答えもよく分からず、それはきっと自分の未熟さ故と思いながらも、ずっと頭を抱えている
…なぜでしょうか?
基礎である呼吸を身に付けたはずなのに、全然思い通りにできないのは、やり方が間違っているんでしょうか。それとも、全員未熟だからでしょうか?
まさか、基本中の基本だと刷り込まれている腹式呼吸が間違っているなんて、思いもよらないことでしょう。
そのまさかです。
そう、腹式呼吸は、生理学・解剖学的見解からすると、非常に不自然であるうえ、発声に用いると有害でしかないという研究結果が、もうかれこれ50年以上前に結論づけられているのです。
- 現在、養成所に通っている生徒
- 現場に出ているものの、声の悩みが尽きないプレイヤー
- 発声を教えている講師
何年もかけて必死に習得したところで全く意味がない。その理由を今回はお伝えしたいと思います。
腹式呼吸がよくない理由
なぜ、発声で腹式呼吸がよくないのでしょうか。それは次のような理由です。
腹式呼吸をやめた方がいい理由(①〜④)の解説動画です。
発声に腹式呼吸を用いない方がいい5つの理由
息が必要以上に漏れる
本来は息を節約するために、19世紀半ばに考案されたのが現在の腹式呼吸です。それまで主に東洋で行われていた肚(はら)を用いた呼吸とは全く別ものです。
近代メソッドの誕生と理論の確立までの歴史
当時は息を節約することを目的に考案されましたが、時代とともに曲解され、たくさん吸って吐けに変わってしまいました。
肺は、全体の1〜2割のスペースを、古い空気と新しい空気を出し入れするための作業スペースとして使用することで、滞りなく呼吸を行うことを実現します。
しかし、息をたくさん吸うとどうなるでしょうか?
その作業スペースは失われ、空気で満タンになった肺が取れる行動はただ1つ、息を出さざるを得ない状況、即ち、漏れる状態になります。試しに、何秒間声を出し続けられるかやってみてください。
- 肺が満タンになるまで吸った場合
- お花やコーヒーの香りを嗅ぐ程度に吸った場合
どちらが長く続くでしょうか?
僕が動画撮影時に行った結果は、
① 肺を満タンにする 50秒
② 香りを嗅ぐ程度 2分46秒 でした!
声門下圧が高くなり、声帯筋のコントロールが難しくなる
まず、声門下圧について説明します。
声門下圧(subglottic pressure)とは、肺からの吐く息(呼気)と声帯との間に生まれる力のこと。声帯を振動させようとする力に比例する。たくさん息を吐く、もしくは声帯を強く閉鎖させることで大きくなります。
現代版の腹式呼吸は、たくさん吸ってたくさん吐けなので、声門下圧が強制的に上がります。よって、呼気が少ない人、声門の抵抗が弱い人など、一部の人には効果を得られます。
しかし、呼気が増大するということは、必要以上に声帯に息が当たる結果となります。その代償として、声帯筋の緻密なコントロールが難しくなります。
息が適切な量と必要以上にある状態ーこれは、そよ風の中と台風の中、どちらがより自由に動けるかに似ているように感じます。
また、声門下圧が高くなることで、声帯や呼吸器官の動きが不自然になり、柔軟性や機敏性に欠けてしまう恐れがあります。
次の項で詳しく説明しますが、呼吸は本来なら自動的に行われているものなので、呼気量を意図的に増やすと、統制の取れている器官のバランスが崩れてしまうのです。
ひどい場合、呼吸器官への過剰な負荷が原因で、疾患になる可能性もあります。
呼気を増やすことで効果を感じる人の特徴は次の2つが挙げられます。
- 呼気量が少ない方
- 声門の抵抗が苦手な方
① 呼気量が少ない方
呼吸は、しないと死ぬものなので、通常、息が吸えない・吐けないということはあり得ません。多くの場合、心因性の何かが原因となります。
もちろん、物理的に出しやすくする方法はありますが、根本的な原因を解消する方が近道です。心因性の何かは、同じ症状でも人によって原因は必ず異なるので、カウンセリングをおすすめします。
② 声門の抵抗が苦手な方
そもそも、声帯筋は抵抗を苦手とする構造になっています。ヒダが呼気と同じ方向に向いているからです。
閉鎖筋群を鍛える方法や、声帯の上部に位置する仮声帯による抵抗を用いる発声(ガムなど)を行うことで、抵抗の感覚を掴むことが可能です。
呼吸筋の動きは、声帯の振動の速度についていけない
呼吸筋とは、呼吸を行う筋肉の総称。すなわち、呼吸をするときに胸郭の拡大、収縮を行う筋肉のこと。種類としては、横隔膜、内肋間筋、外肋間筋、胸鎖乳突筋、前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋、腹直筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋などがある。
-wikipediaより
呼吸筋を最も速く動かすスキルとして、ドッグブレスというものがあります。名前の通り、ワンちゃんが餌を見つけたときのようにハッハッハッハッと呼吸をします。
統計的に日本人は、素速い呼吸を行いやすい体幹の人口比率が少ないとされています。が、ある程度の発声訓練を積むと、そこまで難しい内容ではありません。
ちなみにドッグブレスは、1秒間に5回もできればかなり速い方だと思います。
一方、声帯筋はもっとたくさん動きます。
人の話し声の帯域である300〜700Hzは、1秒間に300〜700回の音の波が発生します。即ち、それだけ声帯筋も振動します。
呼吸筋は声帯筋の速さについていけないというのは、この数字の違いからもあきらかではないでしょうか。
声帯周りの筋肉をきっちりコントロールできるようになれば、呼吸は自動的に行われる
声の大きさ、高さ、太さ、響きや通り、声色などは、声帯筋の形や密度、位置取りなどで決まります。
声帯筋の構造と機能
声帯筋は、弦楽器でいう弦のような役割を担います。自身が緊張することで密度などを変化させ、力強い声を生み出したりします。
ボイストレーニングとは、発声に関連する筋肉:声帯筋とその周りの筋肉(内喉頭筋群や喉頭懸垂筋群)を自在に使いこなせるように訓練することです。息を長く続けたり、安定させたりするのは、全て発声に関連する筋肉の能力で決まります。
呼吸しなければ人は死んでしまうので、嫌でも自動で行われます。加えて、発声の筋肉をきっちりと鍛えれば、適切な息を自動制御できますので、わざわざ訓練する必要がありません。
そもそも精神世界で用いるためのものである
19世紀半ばに考案された現在の腹式呼吸と、ヨガなど主に東洋で行われていた肚(はら)を用いた呼吸とは全く別ものです。
お尻の穴を締めて下っ腹に力を込めれば、丹田を鍛えることができる!と指導されているのを見かけますが、そもそも丹田という器官は存在しないため、どれだけ力を入れても全く効果がありません。1お尻の穴を締めて下っ腹に力を込めると、推測ですが、お漏らししにくくなると思います。あくまで霊的・精神的なものです。
丹田の感じ方、そして実際の鍛え方は有料コンテンツになるため、紹介はここまでとさせていただきますが、動画で一部お話ししています。
この動画を YouTube で視聴
いかがでしたでしょうか?
そもそもなぜ、多くの講師が腹式呼吸は絶対的に正しいものと思い込んでレッスンを行なっているかーそれは、講師がトレーナーではなくコーチだからという発声コンディショニング上の分類の違いによるものです。仕方がないとはいえ、だからといって言われた通りに腹式呼吸を身につけるのは違うと思いますので、呼吸に捉われず、発声に関連する筋肉の強化に時間を割いて欲しいと思います。
もっともっと!詳しく聞いてみたい方には、発声診断書®︎のレッスンをおすすめします。
発声診断書®︎で行うのは次の内容です。
- 発声理論をもう少し詳しく解説
- 10個の声を出して現在の声の状況を診断する
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ライトコース/スタンダードコース/スペシャルコースの3つのコースからお選びいただけます。
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