やめた方がいいボイトレ
多くの養成機関で教えられている発声訓練、通称ボイストレーニング。
従来の発声訓練は間違っていたという見解も見られるようになり、そのうち19世紀半ばに考案された近代メソッドは消滅するのではないかと思っています。
しかし、今なお当たり前のように教えられているけど、実はやらない方がいいよ!というボイストレーニングが蔓延している事実は変わりません。
今回は、生理・解剖学的見解から考えるいますぐやめた方がいいボイストレーニングについて、お伝えしたいと思います。
- これから歌手や声優の養成所に通う予定、もしくは現役で通っている人
- 現在、声の仕事を受注している人
- 養成所などで声を教える立場の人
その1 呼吸法
生徒さんのお話を聞く限り、ほとんどの養成機関で、まず呼吸法を教えているように思います。当たり前、鉄板のように思われるかもしれませんが、実は全くといっていいほど必要ありません。
まず、近代メソッドの代名詞とも言える腹式呼吸。19世紀半ばのオーケストラの大音量に対抗すること、喉頭鏡の発明など、様々な歴史的背景から生まれました。
当初は出す息を節約するメソッドでしたが、時代とともに曲解され、今ではたくさん吸ってたくさん吐くことで声のコントロールが自在に!なんてふうになりました。
声門下圧が強制的に上がるため、一部の人には効果を感じられるものの、一連の発声の動きが体の構造や動作が不自然で、柔軟性や機敏性に欠けます。そして酷い場合、呼吸器官への多大なる負荷が原因で疾患に繋がるリスクもあります。
コメント 全くやる必要ありません。時間の無駄です。
呼吸は発声関連の筋肉がしっかり機能するようになれば自動的に行われます。
次に、臍の下3寸の場所に位置するとされる丹田を用いた呼吸。
丹田自体は、お尻の穴を締めることにより感じられる部分と言われています。それゆえ、お尻の穴を締めた状態で〜と言われ、やったことのある人も多いのではないでしょうか。
しかし、丹田とは臓器でもなければ、肉体でもありません。
あくまで精神的な概念、いわば気のようなものです。決して発声に用いるようなものではありません。
では、お尻の穴を締めることで得られるものはなんなのか。最も効果を発揮するのはズバリ、
う◯ちを我慢することができる技術だと思います(笑)
こちらの動画で詳しく解説しています。
コメント 丹田は肉体の概念ではありません。
お尻を絞めても鍛えられません。う◯ちの我慢スキルはアップします。
参考までに、呼吸に関するアプローチを行うのは、純粋な裏声(ワイルドエアー)を出す練習、吸気性発声(吸いながら声を出す)の2つくらいしかパッと思いつきません。稀にあえて呼吸に焦点を当てる指示をすることもありますが、何ヶ月、何年も時間を割いて意味のない呼吸法をやっているのは、とても嘆かわしいです。
その2 腹筋・足上げ腹筋
お腹で支えると安定するという理由で、まず最初に腹筋や足上げ腹筋を指導する場合が多いような気がします。
しかし、脳神経系を見れば一目瞭然ですが、声を出す工程に、お腹は全く関与していないのです。
ちなみに、鍛えた自慢の腹筋を現場で発揮しようとしたことはありますでしょうか?
では試しに、座った状態で、お腹に力を入れながら膨らませて息を吸ってください。そして緩めながら息を吐いて、歌ったり原稿を読んだりしてみてください。
…しんどくないですか?普通に息を吸って吐く方が楽じゃないですか?
しんどい!と思った人は体に正直な人です。
そう、現場で全く役に立たないスキルを一生懸命やっていることになります。
ただし、太りにくい、腹筋が割れるという点ーすなわち見た目や運動能力の点ではアドバンテージが得られます。声とは関係なく、体づくりの一環としてやりましょう!
コメント 発声においてはやるだけ無駄です。
バキバキの腹筋を作るのにおすすめのトレーニングはジャックナイフです。
その3 ストレッチ
体が柔らかいと声が出しやすく感じるとは思います。
しかし、発声に関連する筋肉がきちんと整っていれば、体が硬かろうが姿勢が悪かろうが、望む声は出ます。晩年の美空ひばりさんがとても分かりやすい例かもしれません。
声をよくするためにストレッチは論外です。前屈、開脚…どれも発声に関係しない筋肉のストレッチです。日常の体のケアとして行うならいいと思います。
ただし、ただただ痛いと思いながら柔軟をすると、体は硬くなるようになっています。あくまで気持ちいいと思える範囲でやるのをお勧めします。
コメント 発声においてはやるだけ無駄です。
生きる上で体が柔らかいことに越したことはないので、日常の生活習慣でやるのはOKだと思います。
その4 発声配置
「声を鼻に当てて」「頭に響かせて」など、体の特定の部位に声を当てることを発声配置といいます。
有名なものでは、リリー・レーマンの発声知覚配置図などがあります。
フレデリック・フースラーが提唱した訓練アンザッツの誤解もよく見かけます。
◯◯筋を使うと言われても難しいから、「頭に当てることによってここらへんの筋肉を使っているのを感じることができますか?それを鍛えるんですよ」という意味で書かれていたのですが、歪曲されて、ただ単に頭に声を当てろというふうに解釈されています。
一例を紹介します。アンザッツ4がいわば頭に当てた感覚のときに使う筋肉を鍛える声になります。現在、頭の天辺に声を当てるとよく声が響くと指導される人が多いように見受けられます。残念ながら、アンザッツ4の訓練によって得られる効果は、声の響きではありません。
コメント 感覚的でズレまくった訓練です。
いわゆる当てトレと呼ばれるものは、当てている感覚を作り出す理由を理解していなければ、全く意味がありません。
その5 鼻腔共鳴
鼻の奥(ハッカを摂取するとスースーするところ)に鼻腔という空洞があります。そこに声を響かせることによって、声の大きさ、響き、高さにアドバンテージを得られるという考え方です。
しかし、鼻腔は共鳴器としてほとんど機能していないという結果が、ウォレン・ウルドリッジという方の実験により実証されています。
また共鳴とは、あくまで声量の増幅、いわばアンプの役割を担っているものです。アンプはあくまで増幅させるものです。音色を作る発声と、増幅させる共鳴は別に考えます。共鳴を意識した発声を行おうとした時点で、生理学的に不自然な状態になりやすく、自由自在な発声を得るのが難しくなるように思います。
こちらの動画で詳しく解説しています。
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コメント 共鳴腔として重要な役割があるのは、咽頭腔と口腔です。全く効果がないわけではありませんが、重要視するほどの内容ではないと思います。
その6 地声で音程を取る練習
うたの分野の方は、ソルフェージュやコールユーブンゲン、または教本に載っている音階練習をやったことがあるかと思います。とても大事なレッスンではありますが、音程を取る練習としては、効果が薄いと感じています。
大きな理由としては2つあります。
音程を取るときに主導するのは裏声系の筋肉(輪状甲状筋)であること。すなわち裏声の訓練こそ音程を取る能力を高めるということ。
そしてもう1つは、アカペラを除き、多くの場合は伴奏に合わせて歌うことが多いと思いますが、ハーモニーの中で音を出す練習をしないと、音を合わせる能力が違う形で使われてしまうということです。
もちろん、よくある音階練習も、耳を鍛えるという点では決して無意味ではありませんが、裏声を出す訓練をしている方が、効率的な訓練になります。
参考までに、男性と女性、カラオケに行った際、女性の方が音程を取るのが上手なイメージがありませんでしょうか?これは、男性はほとんどの方が地声の方が発達している、女性は裏声が発達している場合が多く、裏声をよく使う女性が音程を取るのに長ける傾向があるためです。
こちらの動画で詳しく解説しています。
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コメント 音階練習は耳の訓練としてはいいと思います。
ただし、もっと効率のいい音程を取る/耳を鍛える訓練はありますので、そちらに時間を割きたいです。
その7 早口言葉/口角を上げる等の滑舌練習
ことばの分野(アナウンサー、ナレーター、役者、声優など)の方は、養成機関で必ずといっていいほどやるのが、外郎売ですね。よく、暗唱して早口で言っているのを耳にします。ぶぐばぐぶぐばぐびぶぶば…すげえ、よく言えるなぁと感心します(笑)
早口言葉の題材としては、おもしろいと思います。ただし、あくまで外郎売は薬売りのお話であるゆえ、舌耕芸として演じるのが重要です。綺麗に速く言うのではなく、イメージ的に歌舞伎風に言うことによって、本来得られるはずの滑舌訓練になります。
そして、口角を上げて〜!表情筋を使って〜!という指導。これも無駄ではありませんが、声を鍛える第一次訓練で行う内容ではないと思います。
ためしに、頬を押さえて口角や表情筋をロックして言葉を話してみてください。あら不思議、普通にそれっぽく言えるのではないでしょうか?
よく言われている口角や表情筋はそれほど滑舌に影響を及ぼさないのです。
もちろん、無駄ではありません。構音筋が上手に使えている人とそうでない人とでは、滑らかさ等に差があります。しかし、それは同業者が聴けば分かるものの、普通の人が聴いても分からない人の方が多いレベルのお話。滑舌基礎は、もっと別に行うべき訓練があります。
コメント 楽しくできるのが1番ではありますが、どうせならもっと効率のいい滑舌練習をしたいです。外郎売は舌耕芸としての練習をおすすめします。
その8 ミックスボイス
よく、地声と裏声を混ぜることで、高い声や楽な声が出せ、表現が豊かになると評されるミックスボイス。
残念ながら、なぜ混ぜるのかを理解している指導者が少なく、ただただ地声と裏声を混ぜて終わりという指導が多く見受けられます。アンザッツ5に地声的要素を足して完成〜!という、ちょっとセンスある人がやれば1分でできるようなものをミックスボイスと呼んでいたりもします。
本来ミックスボイスとは、完全な地声と完全な裏声を融合(ブレンド)することによって、内・外喉頭筋群の機能を高めるための練習のことをいいます。完全な地声と完全な裏声を出せる射程にあることが最低条件です。それには最低3年はかかりますし、極めるには6〜10年かかります。
こちらの動画で詳しく解説しています。
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コメント ただ混ぜるだけのミックスボイスはやるだけ無駄です。地声と裏声をしっかり訓練し、その上で融合させてこそ、初めて意味を為します。
その9 短期間でできるようになる
若いうちに名を残したい、ライバルに差をつけたいーいろんな理由から、短期間でどれだけ上手になれるか。その気持ちは十分に理解できますし、その通りだと思います。
ただし、一長一短で身につくものは、たかが知れています。付け焼き刃の技術を身につけたところで、はたして本当にあなたの役に立つのか、甚だ疑問です。
以前、沖縄で吹きガラスの工芸を体験したとき、インストラクターの方とこんなお話をしました。
「このお仕事、どのくらいされているんですか?」
「今で丸3年くらいですかね〜」
「お上手ですよね」
「いえいえ、まだまだなんです」
「そうなんですか?」
「やっぱり10年くらいしないと、一人前とはならないですね〜」
おそらく、工芸品を作るということなら1年で形にはなるのでしょうが、ただ作れるだけではなく一人前になるという点では10年かかるのでしょう。これは職人も然り、声も然り、絵描きも然り。
あらゆるジャンルで10年修めるとでプロになれると言われています。費やした時間が1万時間、それを費やすのに10年という感じですが、一人前になるには誰でも10年かかると思って地道に努力することが、今後の長いあなたの人生で有益になると思います。
コメント 一人前になるには1万時間が必要。焦らずしっかりと基本を身につけましょう。
その10 良い声になる
最後は、やや主観ではありますが、心理の分野を修めているからこそ思うことなので紹介させてください。
ボイトレに通っている理由を聞くと、
もっと良い声になりたいから
という意見が多いように思います。
これこそが、声の訓練における諸悪の根源ではないかと考えています。
事実として、一般ウケしやすい声、聴き取りやすい声、聴き心地のいい声は存在します。もちろん、発声訓練を行っていくことで、そういった声になるでしょう。
ただし、そうなるまでの間に心の声で発する「もっと良い声になりたい」は、今の自分の声は悪い声だというメッセージがあり、そしてそれは無意識に強く入ります。
考えてみてください。「お前は悪い子だ」と言われ続けて良い子に成長する人はいるでしょうか?ほとんどいないのではないでしょうか。
もちろん、ハングリー精神や反骨精神で跳ね上がる人もいます。僕もそうでした。上達するためのきっかけとしてはいいかもしれませんが、僕はこう言いたいです。
「気づいていますか?あなたは今のままで十分に素晴らしいということを」
結論としては、声に良いも悪いもない、声を良い悪いで価値判断しているうちは、あなたが本当に声で表現できる可能性にまだ気づいていないということです。
おすすめのボイトレ
いかがでしたでしょうか。もっと詳しく聞いてみたい方には、発声診断書®︎のレッスンをおすすめします。
発声診断書®︎で行うのは次の内容です。
- 発声理論をもう少し詳しく解説
- 10個の声を出して現在の声の状況を診断する
- 日課メニューを組む
ライトコース/スタンダードコース/スペシャルコースの3つのコースからお選びいただけます。
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